差別化ポイントに関する4つの視点

転職ノウハウ
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はじめに

転職市場で高い競争力を持つ人材になるためには、他の候補者ではなく、自分を採用すべき理由、つまりは差別化ポイント明確にすることが大切です。

ただ、差別化ポイントはあれば良い、というものでもありません。その差別化ポイントに競争力がなければ、転職において役に立たないからです。つまり、競争下においては「みんな違って、みんないい」とは言っていられないのです。

そこで、このエントリーでは、競争力のある差別化ポイントとはどんなものなのかについて考えてみたいと思います。

なお、「差別化ポイント」と毎回書くのはさすがにくどいので、ここからはPoD(=Point of Differentiation)と記載します。

PoDを4つに分解して考える

まず、話をわかりやすくするために、PoDを「ポジショニング」「ストック」「スタイル」「ポテンシャル」の4つに分けて考えてみましょう。

ポジショニング

一つ目の「ポジショニング」は、どのエリアを戦場にするかということであり、「戦略」と言い換えることもできます。

そして、ポジショニングは、「拡張」と「深耕」へとさらに分類することが可能です。
法務×IT、法務×セキュリティ、法務×ファイナンス、といった具合に、法務を軸足に置きつつ、他領域にも踏み込むことで差別化を図るのが「拡張ポジショニング」の典型です。また、法務を契約、知財、コーポレート、紛争対応、コンプライアンス/教育などの複数の領域に分けることで、契約×知財、といった具合に拡張ポジショニングを行うことも可能です。
他方、法務の中でもM&Aや紛争対応等の特定領域における専門性を強化することで差別化を図るのが「深耕ポジショニング」です。

ポジショニングは「実際どの程度できるのは」はさておき、「何を志向しているのか」を示すものなので、実のところ、宣言さえすれば誰でも簡単に獲得することができてしまいます。
そのため、魅力的なポジショニングには競争相手も多く参入することとなり、これ単独では強い競争力を得ることは難しいといえます。
また、深耕ポジショニングは、質的な違いを含む拡張ポジショニングとは異なり、程度問題でしかないので、さらに参入障壁は低くなり、PoDとしては非常に弱いものになりがちであることに注意が必要です。

ポジショニングそれ自体には実態の裏付けは必要ありません。そのため、今現在、特に明確にポジショニングをしていないのであれば、自分のキャッチコピーとして何をつけたいかという観点で気軽に設定しても良いのではないかと思います。もし、あとになって自分自身の看板なので、違うな、と感じたら付け替えればいいだけのことですから。

ストック

2つ目の「ストック」は、文字通りこれまでのキャリアで獲得し、蓄積してきたストックを指しています。

ストックは、さらに「個人的ストック」と「関係的ストック」に分けることができます。
個人的ストックとは、自分の中に蓄積された知識、経験、スキルのようなものです。また、弁護士、弁理士などの資格も、個人的ストックの一つといえるでしょう。
また、関係的ストックとは、人脈や信頼などの他者との関係の上に蓄積されたものです。関係的ストックのポイントは、人からどう思われているかのみが重要であるということです。言い換えれば、自分が人をどう思っているのかとは無関係です。そのため、自分としては関係的ストックがあると思っていた人間関係が、実は思い違いであったということも珍しくありません。

個人的ストックは、ポジショニングほどではないものの、自分の行動次第で獲得することが可能であるため、比較的時間を掛けずに得ることが可能です。最も手っ取り早い個人的ストックの獲得方法は、書籍を読むことであり、早ければ数時間、長くても数日で知識というストックを得ることが可能です。また、特に個人的ストックの獲得を意識していない人であっても、日々の業務を通じ、経験というストックを自然と獲得しています。
他方、関係的ストックは、他者からの評価を前提にするものであるため、その獲得にはある程度時間がかかるものです。また、目立った存在ではない場合は、日々の業務をまじめにこなしているだけではほとんど蓄積しないということも起こりえるという意味で、個人的ストックよりも獲得難度は高いと言えます。

個人的ストックは獲得が比較的容易であり、すでにコモデティ化しているものも少なくないため、この点で競争優位性を獲得することは簡単ではなく、また、一度獲得した競争優位性を維持するためには、個人的ストックの追加・ブラッシュアップのための継続的な努力が必要不可欠です。
これに対し、関係的ストックは獲得に時間がかかることが参入障壁になることに加え、個人的ストックのように単純比較しづらい(AさんもBさんも一定程度信頼できる人である場合に、どちらがより一層信頼できる人かを判断するのは難しい)ため競争にさらされにくく、一度これを獲得できればその競争力を維持することは比較的容易であるという特徴があります。

スタイル

3つ目の「スタイル」は、行動様式、思考様式といった、その人の奥底に根付いたやり方を指しています。

例えば、未知の問題に出会った際にどのように対処するかや、裁判例やガイドライン等の依拠できる根拠がない論点に対する判断方法などがこれに該当します。
また、サーヴァントマネージメントなどのマネージメントスタイルも、文字通りこのスタイルの一種と言えます。

スタイルは業務品質だけでなく、組織や人との相性にも大きく影響を及ぼす重要な要素の一つです。「波長が合う」という言い方をすることもありますが、スタイルが合致していることは、強いPoDになりうるのです。

また、スタイルは一朝一夕に獲得できるものではないため、競争優位性が薄まりにくいというメリットも挙げられます。

他方、スタイルはその人の奥底に根付いたやり方なので、どのようなスタイルを持っているのか(または持っていないのか)を外からうかがい知ることも難しいものです。そのため、スタイルで差別化するためには、自分がそのスタイルを持っていることを説得的に説明できる根拠や、獲得するに至ったストーリーなどを強固にする必要があることには注意が必要です。

ポテンシャル

最後の「ポテンシャル」は、個々人の基礎的な能力を指しています。

記憶力のようなわかりやすいものから、人懐っこさや地頭のように、実際それが何を指しているのかわかりにくいものまでその内容は多種多様ですが、いずれもそのレベルは先天的な要素で決定されるところが大きくという共通点を持っています。言い方を変えれば、自分の努力でカバーできないのがポテンシャルの最大の特徴です。

学歴や知識のような個人的ストックはポテンシャルの裏付けに支えられているところが少なくありませんが、イコールではないことに注意が必要です。努力すればある程度なんとかなる個人的ストックと、努力ではどうにもならないポテンシャルとを峻別することは、無駄な努力を避けるための最初の一歩です。

ポテンシャルは先天的なものである以上、高いポテンシャルを基礎とするPoDは、非常に堅強です。ただ、ポテンシャルは、それのみでは直接競争力に結びつくものではなく、個人的ストックやスタイルに効率よく転化させることができないと、「もったいない人」になってしまいかねません。

PoDが他のPoDに及ぼす影響

ポジショニング、ストック、スタイル、ポテンシャルは、それぞれ別個独立に存在するものではなく、相互に影響しあっているものです。

ここでは、各PoDが、他のPoDに及ぼす影響を見ていきます。

ポジショニング

個人的ストックとの関係では、ポジショニングを明確に打ち出すことにより、それに沿った業務依頼を受けやすくなり、その結果個人的ストックが効率的に蓄積されるという効果を得られます。
また、自分がどの知識・経験を獲得すべきかが明確になると、インプットにも無駄がなくなるという意味でも、個人的ストックの獲得を強く後押しするという結びつきがあります。

また、ポジショニングが明確であれば、他者からの評価がはっきりつきやすくなるため、関係的ストックにも強く影響します。なお、ここで気をつけなければならないのは、ポジショニングが明確であることにより、関係的ストックに悪影響を及ぼす可能性が高くなるリスクです。例えば、法務×セキュリティというポジショニングをとりながら、実は技術面の知識はからっきしだった場合、法律面でのセキュリティの知識重厚である場合も期待はずれになってしまい、「あいつは口だけだ」といった具合に関係的ストックに悪影響を及ぼすことになってしまうのです。

スタイルとの関係では、そのポジショニングを採るなら、こういうスタイルになるべき、というストーリーができる意味で、間接的に影響する場合もありますが、その影響は限定的でしょう。

他方、ポテンシャルとの関係においては、それが先天的なものである以上、ポジショニングが及ぼす影響は皆無です。

ストック

ポジショニングからストックという方向での影響が大きいことは前述のとおりですが、ストックがポジショニングに及ぼす影響もまた大きいと言えます。
というのも、ポジショニングは自分の考え一つで決められる、とはいうものの、通常はゼロベースでこれから進むべき方向性を考えることは稀であり、自分が今現在持っているストックを活かせるようなポジショニングをとるのが通常だからです。逆に言えば、全くストックのない未開の地を目指すポジショニングは、完全な若手やキャリアチェンジを意図的に志向する方以外にとってはリスキーであり、あまりおすすめできるやり方ではありません。

このように、ポジショニングとストックは、いわば鶏と卵のような関係にあるといえるのです。

他方、ストックがスタイルに及ぼす影響として、スタイルは強い原体験や過去に受けた薫陶に裏打ちされていることが多いことが挙げられます。その意味では、ストックがスタイルに一定の影響を与える存在であることは間違いありませんが、同時に原体験は、意図的にコントロールして得られるものではないのが難しいところです。

そして、ストックがポテンシャルに及ぼす影響はもちろん皆無です。

スタイル

スタイルに合わないポジショニングはちぐはぐさを生むという意味で、スタイルはポジショニングに限定的な影響を及ぼします。例えば、PoDを生むスタイルとしてリサーチのスタイルを打ち出している方が、リサーチを必要としないポジショニングを採ることは得策ではない、といった具合です。

また、良いスタイルはストックの獲得を加速してくれますので、スタイルはストックに強く影響を及ぼします。典型的な例は「経験をドキュメント化する」というスタイルで、このスタイルを持っている方は極めて効率的に個人的ストックを獲得することができます。また、古くから言われている「ホウ・レン・ソウ」は、関係的ストックの獲得を強力にサポートしてくれます。

そして、言うまでもなく、スタイルはポテンシャルに何の影響も及ぼしません。

ポテンシャル

ポテンシャルに見合わないポジショニングは非現実的であるという意味で、ポテンシャルはポジショニングに影響を及ぼすことが理屈としては考えられます。しかし、現実的にはそのようなポジショニングをとる方はほとんどないため、大多数の方にとってはポテンシャルはポジショニングに影響しないと言えます。逆に、本来は影響がないはずのポテンシャルの欠如を理由に、ポジショニングに制限をかけてしまうといったことを意識的に避ける必要があるくらいです。どうせ自分には無理だから、と何かを目指すこと自体から目を背けている人が、その何かをなすことができないのは、ポテンシャルの問題ではなく、意思、すなわちポジショニングの問題であることが多いという意味です。

他方、ポテンシャルは、ストックの中でも、特に個人的ストックに極めて強い影響を及ぼします。言うまでもなく記憶力が高ければ獲得した知識を容易に維持できますし、思考力が高ければ他者の知見を効率的に取り込むことが可能になります(裏もまた真なのが厳しいところではあります。)。

また、ポテンシャルがスタイルに及ぼす影響も小さくありません。なぜなら、スタイルは、一定のポテンシャルを有していることを前提とすることが少なくないからです。

PoDの組み合わせがあなたの個性

これまで見てきたように、PoDは人によって千差万別であり、誰かとそっくり同じということは考えにくいものです。

にもかかわらず、「法務×IT」といったポジショニングや、「メーカーでの8年間のインハウス経験」のような限定的な個人的ストックを切り出し、それ単独で差別化を考えてしまうのは得策ではありません。

転職や目標設定などのタイミングで、ポジショニング、ストック、スタイル、ポテンシャルを有機的に組み合わせて、立体的にあなた全体のPoD、すなわち個性を再確認してみてはいかがでしょうか。