【転職ストーリー】世古さんのケース

転職ストーリー

どんな人?

  • お名前:世古修平
  • 勤務先:
    • LINE株式会社(Privacy counsel)
    • IPA(試験委員)
    • インハウスハブ東京法律事務所(第二東京弁護士会)
  • ブログ:思い出したいことがある
  • Twitter ID:@seko_law
  • 転職回数:2回(ビズリーチ、リファラル)
  • 30代男性

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本日はよろしくおねがいします。

世古さんは司法修習の修了後、法律事務所でも企業の法務部でもなく、コンサルタントとして就職されていらっしゃいますが、まず、このキャリアを選択された背景から教えていただけますでしょうか。

実は、司法修習前の出来事がこのキャリアに大きく影響しているので、そこからお話しさせてください。

当初、弁護士になった後は、自分の専門性を活かして地元に貢献できればいいなと思い、地元に帰って即独しようと考えていました。当時、私の地元には法律事務所が数所あるだけだったので、即独でもそれなりに事業として成り立ちそう、という算段でもありました。

そんな思いもあり、司法試験受験後、合格発表までの期間に、即独に備えて地元の事務所でアルバイトをしたのですが、そこで地域に根づく法律事務所の仕事に触れたことが転機になりました。

この文脈からすると、合わなかった、ということですよね?

えぇ、そのとおりです(笑)
取り扱っていた事件は、離婚、相続、過払金といったものが中心だったのですが、どうしても気持ちが入らず、もしかしたら自分はこういった仕事をやりたいわけではないのかもしれない、ということに気づいたんです。

そもそもアルバイト先の先生も、司法修習後にすぐに仕事に就かず、バックパッカーとしてアジア大陸を旅していたような方だったこともあり、1年位かけて人生の計画を練り直すのもありだな、と思うようになりました。

そんなこともあり、司法修習に入るのを1年延期し、延期によって得られた1年間の猶予期間で、全国の先生方にお話をお伺いする行脚をしたんです。

全国というのはすごいですね。
どうやって訪問先を開拓されたんですか?

主にTwitterです。
Twitterには、おもしろそうな先生、お話をお伺いしたい先生がたくさんいらっしゃるとはかねてから思っていたので、この機会に「お話をお伺いさせてください」とDMでご依頼しました。

この方法でも9割くらいの先生方にはお時間を作っていただけたので、本当にありがたいと思いましたし、何よりもお伺いしたお話は、将来を考える上でとても参考になりました。
もし私のように将来の進路に迷っている司法試験の合格者や司法修習生がいたら、ぜひ思い切って様々な分野でご活躍されている先生方のお話を直接お伺いすることをお勧めします。

ところで、司法試験合格後の進路が多様化してきているとはいえ、修習に入るのを延期する方は、ほとんどいらっしゃらないですよね。

アルバイト先の先生のように、司法修習を終えてから考慮期間を設けるという選択肢を採らなかったのはなぜですか?

司法修習生になるということは、法曹になるためのレールに乗るということでもあります。自分のキャリアに関する方向性が定まっていない状態でこのレールに乗ってしまうと、自分の考えを固められないまま流されてしまうのではないか、という思いがありました。

実際、私はコンサルティング業界に進むことを決めた上で司法修習に入ったのですが、この選択については様々なアドバイス・・・というか、率直に言えば苦言をいただきました。中には、「そもそも弁護士になる気がないのであれば、合格を返上して、もっとやる気のある次点の不合格者と交代すべき。」と言われたこともありました。そういった声を受けても自分の想いを貫けたのは、修習前に自分の進むべき道はここだ、と納得するまで考え抜いたからだと思います。

その意味では、修習を延期してキャリアを考えたことは正解でした。

修習を延期した期間では、どのような検討をされたのでしょうか。

まずは、自分が何をしたいのかを自問し、私は共感できるクライアントのために仕事をしたいのだ、という結論に至りました。

街弁でも依頼者に共感できるケースはもちろんありますが、個人間の争いという事案の性質上、相手方への要求が過度になったり、不合理な主張を求める依頼者が出てくることもまた事実です。街弁をやっていく上では、そういった依頼者とうまく折り合いをつけながら事件に取り組んでいく必要があると思うのですが、私にはそれがとても難しく感じました。

となると、はやり当初想定していた「地元で即独」という選択肢は私には採れないと考えました。

また、当時新人弁護士は例を見ない買い手市場で、年を追うごとに公表される初任給の平均が下がっているような状況だったんです。この買い手市場を生き残っていくためには、弁護士としての武器になるもの、すなわち「弁護士×○○(掛け合わせることで価値が出る何らかの専門性)」の、○○をできるだけ早く見つけ出し、自分のものにする必要があると考えました。

とはいえ、現時点で何を武器にすればよいのかについて確固たるアイデアを持っているわけではないので、プロフェッショナルとして幅広い業界を経験できる職種であるコンサルタントが現時点で最適な選択肢である、と結論づけました。

また、コンサルティングファームには、将来起業することを予定している「社長の卵」みたいな人材もたくさん集うので、そういった方と知り合えるという実利的な目論見もありました。

圧倒的な自己分析ですね。
この結論に至るまで、どのくらいの期間を要したのでしょうか。

検討期間はおおむね3ヶ月位だったと思います。その後はコンサルティングファームへの就職準備をしていました。

具体的には、英語の勉強やMBAの書籍をつかってロジカルシンキングの基礎を身に着けたり、コンサルティングファームへの就職ノウハウをまとめているサイトを見て準備をしたりしました。

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コンサルティングファームも様々なところがありますが、どのような軸で選定されたのでしょうか。

まず、私は自分の武器を見つけることが目的でコンサルティングファームを進路として選択したので、戦略系ではなく、いわゆる総合系と呼ばれるコンサルティングファームのみをターゲットにしました。
そして、大手であればあるほど案件の幅は大きくなるはずですので、総合系コンサルティングファームの最大手にコーポレートサイトから新卒としてエントリーしました。そのファームは、卒業後3年間は新卒採用に応募できたので、特にエージェントや転職サイトなどを経由する必要はありませんでした。

新卒は横のつながりが強く、また会社として育成すべき対象として見てもらえるので、たまたまではありましたが、今思うと新卒で入社できたのはラッキーでしたね。

年収は600万円位からのスタートで、昇給は年に100万円位ずつでした。

コンサルタントとしては、目論見通り様々なミッションを経験できましたか?

そうですね。
大きな括りでは、組織人事、戦略、ITと幅広く経験させてもらいました。

ただ、このうち戦略コンサルティングについては、自分には向いていないことを実感しました。
戦略コンサルティングは、クライアントが日々戦っている土俵に乗って、短期間で情報を分析し、クライアント自身がまだ気づいていない価値を発見しなければならない仕事なのですが、クライアントごとに前提条件や課題は異なる以上、案件ごとにゼロからのリスタートになるわけです。もちろん、分析の手法やフレームワークなどは共通していますが、今どきクライアント側もそういった知識は持っていますし、素養もお持ちの方も多いので、手持ちの武器を使えばすぐに価値を出せる、といった世界ではないんですよね。

戦略コンサルティングの世界で活躍している先輩を見ると、生身で戦える武闘家という印象ですね。どちらかというと私は、自分が身につけた武器で強くなって行きたいタイプなので、素手で戦わなければならない戦略コンサルは難しそうだ、ということを自覚しました。

逆に、おもしろさを感じたのはどんな分野でしたか?

やはり、セキュリティ関連の仕事ですね。

あるプロジェクトが、社外で発生した大規模な情報漏えい事件に巻き込まれてしまったんです。その結果、それまで細かく進捗管理をしていて、少し遅れが生じただけで偉い人が怒られたりしてにもかかわらず、一発でプロジェクトが全部吹っ飛んだんです。この影響力の大きさに逆にやりがいを感じて、セキュリティにのめりこんでいきました。

セキュリティ事故って、完全に防ぐことはできないんです。それなのに、事故が起こると重大な影響が生じてしまう。
完全に防ぐことはできないが、インシデントを発生させるわけにはいかないという状況下において、コストも時間も有限な中で最善を尽くすことに、ある種のパズル的なおもしろさを感じたんですね。

とはいえ、セキュリティのコンサルティングは、高度な専門知識を要求されると思うのですが、その点は障害にはならなかったのでしょうか。

実は、セキュリティについてはこれまでノータッチだったわけではなく、ロースクール生の頃に多少かじってたんです。

文系の学生って、プログラミングとかコンピュータ・サイエンス分野に漠然とした憧れを抱くところってあるじゃないですか。その一貫で、CTFというコンテストに触れていました。
CTFというのは情報セキュリティの課題の中から隠された答えを見つけ出し、得点を稼ぐ競技なんですが、ウェブサイト上に出題されたクイズと回答が掲載されていてそれを解いているうちに、自然とセキュリティに関する知見を獲得できていました。あぁ、これが情報の高速道路に乗るってことなんだな、という実感がありましたね。

その意味では、障害にならなかったというより、一歩前に踏み出した状態からスタートできた分野でした。

その後、自分がやっていきたいのはこの分野だと思い、CISSPを取得したり、セキュリティ関連のプロジェクトに特化したいと会社に要望したりして足場を固めていきました。

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順風満帆のように思いますが、この後転職されることにしたのは、なぜなのでしょうか。

セキュリティを専門に取り扱うユニットがなかったのが大きかったですね。

会社側も私のニーズを汲んで配慮はしてくれていましたが、セキュリティ専門ではないので、それ以外のプロジェクトにアサインされることは避けられず、試行錯誤していたところ、ビズリーチ経由で別のコンサルティング会社から声がかかったんです。

ビズリーチは、別に積極的に転職するために登録したわけではなく、新卒入社当初に先輩から「コンサルタントたるもの、自分の市場価値を常に把握しておくべき」とアドバイスを頂き、素直にそれに従って登録していました。

そのコンサルティング会社はセキュリティ専門のユニットがあり、双方のニーズが合致したのでカジュアルな面接を2回しただけですぐに内定をいただきました。

なので、転職活動をした、という感覚は薄かったですね。コンサルタントとしての仕事内容や評価ポイントもほとんど同じだったので、セキュリティに専念できる会社に籍を移したというイメージに近いです。

条件面ではいかがでしたか?

年収は前職維持の900万円位でのスタートでした。

年俸のための転職ではなかったので、給与交渉は特にしませんでした。
ただ、前職は新卒での入社だったこともあり、「弁護士として採用したわけではない」という理由でしばらく会費負担をしていただけなかったので、弁護士登録の維持と会費負担だけは依頼しました。

やはり一番大きかったのは、セキュリティとプライバシーのみを取り扱う部署に配属されたことで、この分野に専念できることでした。

コンサルタントとして活動する上で、弁護士の資格や法律知識は役に立ちましたか?

GDPR対応等の特定の案件を除くと、法律の知識が役に立ったことは具体的にはないのですが、弁護士の資格は、それだけでクライアントから信頼して頂いたり、ある種の権威性を帯びることから、実務上役に立ったことはありました。

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次はいよいよ現職への転職になるわけですが、何かきっかけになるようなできごとがあったのでしょうか。

はい、これは明確にあって、マネージャーへの昇格の内示を受けたことがきっかけでした。

そもそも、コンサルタントという道を選んだのは、「弁護士」と掛け合わせることで価値が出る専門性を獲得するのが目的だったので、非管理職の間に決めようと思っていたこともあり、このタイミングで真剣に自分の進路を考え直したんです。

確かに当初の目的はそうだったと思いますが、コンサルタントとしてこれまで成果を積み重ねてこられたことを受け、法律面もカバーできるセキュリティ・コンサルタントとして進む道はなかったのでしょうか。

もちろん、その道もあったと思います。

ただ、当時の上司が非常に優秀で、魅力的な方過ぎたんです。このままセキュリティ・コンサルタントを続けても、この人を超えることはできないだろうな、という思いが勝って、当初の計画通りセキュリティという武器を持って弁護士になることにしました。

コンサルタントとしては、法律面をカバーできるということは、あくまで副次的な価値なんですよね。なので、法的な素養を持っていることによって、コンサルタントとしての優劣をひっくり返すことはできません。
他方、弁護士がセキュリティを深く理解できていることは、弁護士としての価値にダイレクトに影響します。そうなると、弁護士とセキュリティの掛け算を最大化できるのは、弁護士に軸足を置いたときだと思うんです。

いやはや、当初からの計画をベースにしたキャリア構築には舌を巻きます。

次の転職は、どのようなチャネルを使われましたか?

リファラルを中心に5〜6社から話を聞きました。

基本的にはリファラルですね。JAWS-UGの運営メンバーに入っていたこともあり、その登壇者とのつながりや、以前参加した法務系LT経由のつながりからお話を伺いました。

基本的にはセキュリティとプライバシーの両方に携わることができ、現場寄りではなく、管理寄り。私の専門性を活かす意味で、法令の解釈適用が必要とされる度合いの高い会社に狙いを定めていました。

また、選考の過程を通じ、「経営層のセキュリティに対する意識」であったり、「事業部との距離」も重要だと感じるようになりました。
どの会社もセキュリティは大事、というお題目は口にするのですが、どこまで腹を据えて取り組んでいるのかには大きな違いがあるように感じました。

そんな中で、最低限どこまでやれば許されるのか、という発想ではなく、ユーザーがどう感じるかを重視する姿勢を感じたところに、現職のLINEの魅力がありました。これは、決して綺麗事ではなく、ある種可燃性が高いサービスを運営していることからくる実務的な必要性に裏付けられた発想なんです。コミュニケーションの深いところを担っていることから、ユーザーは不安を抱きやすく、それ故にどうしても可燃性は高くなる。そんな中で最低ラインを探るようなスタンスでは、プライバシーやセキュリティをまともに取り扱うことはできないわけです。

LINEでは、Privacy Counselという職種に就かれていらっしゃいますが、この特別職の存在も判断に影響はしましたか?

Privacy Counselは海外では比較的よく見られる職種で、職種の存在については判断に大きく影響した印象はありません。職種というよりは、セキュリティ/ プライバシー感度の高い事業側の方々と仕事ができそうだ、という環境に惹かれました。

プライバシーに関する判断が分かれるのは、法律面ではなく、ビジネスジャッジの所であることが大半です。このようなマターについて判断が求められるということに、責任とやりがいを感じます。逆に言えば、法令の要求を満たしているかだけを判断すればよいのだとしたら、私はその仕事におもしろさを感じることはできないと思います。

その他には、プライバシー/セキュリティの分野で尊敬する先輩が在籍していることや、弁護士としてのポジションを提示してくれたことも判断に影響しました。

他社との違いという意味では、本社勤務であったことも大きかったです。
外資系のある会社では、業務内容やポジションはとても魅力的だったのですが、重要な意思決定に際しては本国の判断を仰がなければならないということで、辞退しました。

当初思い描いていらっしゃった地元での法律事務所の開業から大きく方向転換して、弁護士×セキュリティ/プライバシーの道を選択されたわけですが、この道に展望は感じられますか?

よくわからない、というのが正直なところですね(笑)
この先、どうなっていくのかが見えているわけではないですから。

ただ、その時々で必死に考え、最も良いと考えた行動を取ってきた自覚があるので、違和感は全くありません。

今は、自分が思い描いていた、やりたい仕事をやれている感触を持っています。

副業について

世古さんは、インハウスハブ東京法律事務所での弁護士業も副業でなさっていますが、これは本業とは全く別の副業なのでしょうか。

えぇ、本業とは切り離しています。そのため、弁護士業は、本業の定時後や土日に対応しています。

忙しいといえば忙しいですが、コンサルタント時代はものすごい激務だったので、その頃と比べると、副業を加味してもワークライフバランスは取れていると思います。週末も仕事をするのは土日のどちらかにしておこう、といった具合ですね。

友人のベンチャーを手伝ったり、前職、前々職でお世話になった方からの紹介が中心です。

これから転職する方へのメッセージ

最後に、これから転職をしようと考えている法務の方に、一言お願いします。

今回お話しをいただいて色々振り返ってみたので、私がキャリアを考える上で大事にしていることを共有させてください。

まず1点目は、自分の好き/嫌いや、得意/苦手を理解することが大事だということです
自分を理解する近道は、他人と自分との比較です。そのため、逆説的ですが、自分を理解するために、まずできるだけ多くの他人を理解するのがおすすめです。
私の場合、修習前にtwitter経由で全国の様々な先生とお会いし、お話ししたことで自分を理解することができました。

2点目は、何か選択をする時にはその選択肢を選ぶ(あるいは他の選択肢を選ばない)理由を、言語化できるレベル・人に説明できるレベルまで明確化することです。
理由が明確でなければ、その理由の妥当性を検証することはできません。良い選択をするためには、理由の明確化は必須だと思います。
そして、理由の明確化のために有用なのがブログです。ブロガーの皆さんなら共感してもらえると思いますが、書いているうちに思考が深まることはとても多いですし、文章の形で一度外に出せば、それを読み、妥当性を検証することも可能になります。

3点目は、自分がしっかり考えて出した結論については、たとえそれが主流派で無いとしても自信を持つことです。
私が選択した「修習を延期する」「法律事務所に勤務しない」「コンサルタントをやる」みたいな選択は、その時々で完全に傍流の選択でした。その結果、「不合格者に合格を返還すべき」「インハウスは格下」「戦略コンサル以外はコンサルではない」といった言葉を主流派の方から実際に対面で言われることもありましたが、その選択をする理由を考え抜いた上での判断だったので、決意が揺らぐことはありませんでした。 人は色々言いますが、まぁ結局は他人です。必死に考えて選択をした後は、自信を持ってその選択を正解にするための努力が大切なのかなと思いますね。

って、全然一言じゃなくなっちゃいましたね(笑)

本日はありがとうございました!

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